広告
こんにちは、行政書士・相続終活専門士の樽見です。
筆者が初めて相続の大変さを身をもって知ったのは、父が亡くなった数日後でした。葬儀費用や当面の生活費を用意しようと母と銀行へ行ったところ、ATMから現金を引き出せません。窓口で確認して、父の口座から出金できない状態になっていることを知りました。
当時は行政書士でもなく、「相続で具体的に何をするのか」「どこから手を付ければよいのか」も分かりませんでした。身内を亡くした直後に、戸籍、銀行、不動産、税金、相続人同士の話し合いが一度に押し寄せると、目の前の手続きだけで精一杯になりがちです。
相続手続きには、すぐ行う届出もあれば、3か月、4か月、10か月、3年という期限が関係するものもあります。期限が近いものから逆算し、相続人と財産を確認しながら順番に進めることが大切です。この記事では、初めて相続を経験する方が「今日は何をすればよいか」まで分かるように解説します。
- 本記事を読んでわかるポイント
- ・相続が発生した直後からの手続きの流れ
・3か月・4か月・10か月・3年の主な期限
・戸籍や遺産分割協議書などの必要書類
・自分でできる手続きと専門家へ任せる範囲
相続手続きは何から始める?
相続では、いきなり銀行口座の解約や不動産の名義変更を始めるのではなく、まず死亡後の届出、遺言書の確認、相続人と財産の確認へ進みます。最初の数週間で全体を見渡せると、その後の3か月・10か月の期限にも対応しやすくなります。
死亡直後に行うこと
死亡後は、死亡届や火葬許可に関する手続きのほか、健康保険、年金、勤務先、公共料金などへの連絡が必要になります。死亡届は、原則として死亡の事実を知った日から7日以内です。葬儀社が提出を手伝うことも多いため、すでに提出済みか家族間で確認しておきましょう。
同時に、故人の通帳、キャッシュカード、証券会社からの郵便物、固定資産税の納税通知書、生命保険証券、借入金の返済予定表などを一か所に集めます。ここで大切なのは、財産だけを見ないこと。住宅ローン、カードローン、事業上の債務、保証債務なども相続判断に影響します。
故人名義の預金を自己判断で動かす前に注意してください。金融機関が死亡を把握すると、口座からの出金などが止められることがあります。また、相続放棄を検討する可能性がある場合、相続財産の処分が法的な問題につながることもあります。葬儀費用など急ぎの支払いがあるときは、金融機関の相続窓口や専門家へ確認してから進めると安心です。
ワンポイントアドバイス
筆者自身、父の相続では「預金はあるのに使えない」という出来事から相続が始まりました。あのとき一番欲しかったのは難しい法律の説明ではなく、「次はこれを確認してください」と順番を示してくれる人でした。だから現在の相談でも、最初に期限と必要な作業を見渡すことを大切にしています。
遺言書の有無を確認する
次に確認したいのが遺言書です。自宅の金庫や机、貸金庫だけでなく、公正証書遺言が作られていないか、自筆証書遺言が法務局の保管制度を利用していないかも確認します。遺言書の内容によって、その後の遺産分割や名義変更の方法が変わるためです。
自宅で自筆証書遺言などを見つけた場合、家庭裁判所で検認が必要となることがあります。封印された遺言書を勝手に開封せず、遺言の種類を確認してから対応してください。公正証書遺言や法務局の遺言書保管制度で保管されている自筆証書遺言は、原則として検認が不要です。
相続手続きの期限と流れ
相続手続きで特に注意したいのは、すべての期限が同じ日から数えられるわけではない点です。「死亡を知った日」「自分が相続人になったことを知った時」「不動産を相続したことを知った日」など、制度ごとに起算点が異なります。迷ったら死亡日だけで判断せず、個別に確認してください。
| 時期の目安 | 主な手続き | 注意点 |
|---|---|---|
| 7日以内 | 死亡届 | 原則として死亡の事実を知った日から |
| 3か月以内 | 相続放棄・限定承認 | 原則として自己のために相続開始があったことを知った時から |
| 4か月以内 | 準確定申告 | 申告が必要な故人の場合 |
| 10か月以内 | 相続税の申告・納付 | 課税される場合や特例利用で申告が必要な場合 |
| 原則3年以内 | 相続登記 | 相続による不動産取得を知った場合 |
3か月以内の相続放棄
故人に多額の借金がある、保証債務が疑われる、財産より負債が多い可能性がある場合は、相続放棄や限定承認を早めに検討します。相続放棄は、家庭裁判所へ申述して、故人の権利も義務も原則として引き継がない手続きです。
申述期間は、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内です。限定承認も同じく3か月が重要で、こちらは相続人全員で行う必要があります。財産調査が3か月で終わらない事情がある場合には、家庭裁判所へ熟慮期間の伸長を申し立てる方法もあります。相続放棄の制度と申述先については、(出典:裁判所「相続の放棄の申述」)で確認できます。
借金の有無が分からないまま「とりあえず遺産を分ける」ことは避けたいところです。3か月という期限を意識し、預貯金、不動産、借入金、保証関係まで確認してから承認方針を決めます。
4か月と10か月の税務
故人に確定申告が必要な所得があった場合、相続人などが行う準確定申告は、原則として相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です。個人事業、不動産所得、一定額を超える給与所得などがあった方は、早い段階で前年の申告書や源泉徴収票、帳簿を探してください。
相続税の申告・納付期限は、原則として相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。遺産に土地や非上場株式があると評価に時間がかかります。基礎控除の範囲内に見えても、生命保険金など税法上の扱いを確認する必要があるため、財産額が大きい場合は早めに税理士へ相談するのが無難でしょう。
相続税の納付方法や期限について詳しく知りたい方は、相続税の支払い方法と注意点も参考にしてください。
相続登記は原則3年以内
不動産を相続した場合、相続登記は2024年4月1日から義務になっています。原則として、相続によって不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に申請が必要です。正当な理由なく義務に違反すると、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。
遺産分割がまとまらず期限内の登記が難しいときには、「相続人申告登記」により基本的な申請義務を果たせる場合があります。ただし、これは最終的な所有権の帰属を示す相続登記そのものではありません。売却や担保設定をするには別途の相続登記が必要です。詳しくは(出典:法務省「相続登記の申請義務化について」)を確認してください。
相続人と財産を確定する
遺産分割の前提になるのが、「誰が相続人なのか」と「何が遺産なのか」の確認です。ここが曖昧なまま話し合いを始めると、後から別の相続人や財産が見つかり、やり直しになることがあります。
戸籍で相続人を確定する
相続人の確認では、一般に被相続人の出生から死亡までの戸籍・除籍・改製原戸籍をたどり、相続関係を確認します。相続人側の現在戸籍も必要です。子がすでに亡くなっていて孫が代襲相続するケース、子がおらず兄弟姉妹や甥・姪まで相続人になるケースでは、集める戸籍が増えます。
2024年3月からは戸籍証明書等の広域交付が始まり、本籍地以外の市区町村窓口でも一定の戸籍を請求できるようになりました。ただし、すべての戸籍や請求方法が対象になるわけではありません。戸籍と戸籍の附票の違いが分からない場合は、戸籍謄本と戸籍の附票の違いも確認しておくと、必要書類を選びやすくなります。
戸籍一式を何度も金融機関へ提出するのが大変なときは、法定相続情報証明制度を利用できる場合があります。法務局へ戸籍類と一覧図を提出して認証された一覧図の写しを取得すると、預貯金の払戻し、相続登記、相続税申告などで戸籍の束に代えて利用できることがあります。
預貯金・不動産・負債を調べる
財産調査では、現金や預貯金だけでなく、不動産、株式・投資信託、生命保険、車、貸付金、暗号資産、事業用資産なども確認します。一方、負債には住宅ローン、カードローン、未払税金、未払医療費、事業債務、保証債務などがあります。
預貯金は通帳や郵便物、スマートフォンの銀行アプリ、確定申告書の還付先などが手掛かりになります。不動産は固定資産税の納税通知書、権利証、登記事項証明書を確認します。2026年2月からは、相続人などが被相続人名義の不動産を一覧的に把握するための「所有不動産記録証明制度」も始まっています。不動産が複数地域にある家庭では活用を検討できるでしょう。
ワンポイントアドバイス
通帳残高だけで相続財産を判断しないでください。定期預金、ネット銀行、証券口座、借入金などは、家族が存在を知らないこともあります。過去の郵便物、メール、確定申告書、固定資産税関係書類を横断して確認すると見落としを減らせます。
遺産分割から名義変更へ
相続人と財産が判明し、相続放棄などの方針も決まったら、遺言書がある場合はその内容を踏まえ、遺言書がない場合などは相続人全員で遺産分割について話し合います。その結果を金融機関や法務局で使える形にするのが遺産分割協議書です。
遺産分割協議書を作成する
遺産分割協議は、原則として相続人全員が参加して行います。一人でも相続人を外したまま合意すると、手続きが進まない原因になります。話し合いでは「長男が家を相続する」といった曖昧な表現だけで終わらせず、不動産なら登記簿の表示、預貯金なら金融機関名・支店名・口座種別など、対象財産を特定できるようにします。
協議がまとまったら遺産分割協議書を作り、実務上は相続人全員が署名・実印を押印し、印鑑証明書を添える形が一般的です。預貯金の記載方法は、遺産分割協議書の書き方と預貯金引出しのガイドで詳しく解説しています。
遺産分割協議書は、一度作ればどこでも同じ書き方で通るとは限りません。金融機関には所定の相続手続書類の形式に従う必要がある場合もあり、不動産登記では不動産を登記記録どおりに特定する必要があります。提出先を想定して作成することが大切です。
預貯金や証券の名義変更
銀行預金の解約・払戻しでは、一般に戸籍または法定相続情報一覧図、相続人の本人確認書類、金融機関所定の相続届、遺言書または遺産分割協議書、印鑑証明書などを求められます。ただし必要書類は金融機関や相続の内容によって異なります。
証券会社では、故人の口座から相続人の口座へ株式や投資信託を移す手続きが必要になることがあります。売却して現金化する場合でも、先に相続手続きが必要となるのが一般的です。相続人名義の口座開設を求められる場合もあるため、各社の相続窓口へ早めに確認しましょう。
不動産の相続登記
不動産を取得する相続人が決まったら、法務局へ相続登記を申請します。主な書類は、登記申請書、相続関係を証明する戸籍類、相続する人の住民票などです。遺産分割による登記では、遺産分割協議書と印鑑証明書なども必要になります。
登記申請を代理できる専門家は司法書士です。行政書士は相続人調査や戸籍収集、財産目録、遺産分割協議書の作成支援などを担当できますが、相続登記の代理申請は司法書士へつなぐ必要があります。この線引きを最初から把握しておくと、同じ資料を何度も集め直す手間を減らせます。
■ 相続手続きの専門家: 相続専門の司法書士が100名以上!【nocos-ノコス】 ![]()
相続手続きの必要書類
相続の必要書類は「全員が必ず同じセット」ではありません。遺言の有無、相続人の構成、財産の種類、提出先によって変わります。まず共通して使いやすい書類を集め、その後に銀行・税務・登記などの追加書類を確認する方法が現実的です。
共通して集める書類
多くの相続手続きで土台になるのは、被相続人と相続人の戸籍関係書類です。加えて、被相続人の住民票除票または戸籍の附票、相続人の住民票、印鑑証明書、遺言書、遺産分割協議書などを場面に応じて用意します。
印鑑証明書や戸籍には、法律上の一律の有効期限がないものでも、金融機関などが「発行後6か月以内」など独自の条件を設けている場合があります。取得した書類を無駄にしないためにも、先に提出先へ必要な発行時期を確認するとよいでしょう。
手続きごとに追加書類
| 手続き | 主な追加書類 |
|---|---|
| 預貯金 | 金融機関所定書類、通帳・証書、遺言書または遺産分割協議書など |
| 不動産登記 | 登記申請書、住民票、固定資産評価関係資料、遺産分割協議書など |
| 相続放棄 | 申述書、被相続人の住民票除票または戸籍附票、続柄に応じた戸籍類など |
| 相続税申告 | 財産・債務の根拠資料、申告書、各種特例に必要な添付書類など |
書類は「何のために提出するのか」を意識すると分かりやすくなります。戸籍は相続人を証明するため、遺産分割協議書は取得者を示すため、残高証明書や評価資料は財産額を示すため、と目的が違います。目的が分かれば、提出先から追加書類を求められたときも対応しやすくなります。
相続手続きは自分でできる?
相続手続きのすべてを専門家へ依頼しなければならないわけではありません。家族関係が単純で財産も少なく、平日に役所や金融機関へ動ける方なら、自分で進められる部分は多くあります。ただし、期限や争い、税金、不動産が絡むほど専門家の利用価値が高くなります。
自分で進めやすいケース
相続人が配偶者と子だけで連絡も取りやすい、遺産が預貯金中心で借金が見当たらない、遺言や相続人間の対立がない、といったケースなら、役所や金融機関の案内を確認しながら自分で進めやすいでしょう。
まず「相続人」「財産」「期限」の三つを紙に書き出し、終わった手続きに日付を付けていくと漏れを防ぎやすくなります。ただし、相続放棄の可能性が少しでもある場合は、遺産を処分する前に専門家へ相談してください。
専門家へ任せたいケース
兄弟姉妹相続で戸籍が多い、前婚の子がいる、相続人が遠方や海外にいる、行方不明者がいる、借金や保証債務が不明、不動産が複数ある、相続税がかかりそう、といった場合は手続きが一気に複雑になります。
また、相続人間ですでに争いがある場合は、行政書士が交渉代理をすることはできません。紛争性があるときは弁護士、相続税申告や税務判断は税理士、相続登記の代理は司法書士というように、必要な専門家へつなぐことが重要です。
専門家の担当範囲
行政書士は、相続人を確認するための戸籍収集、相続関係説明図や財産目録の作成、相続人全員の合意内容に基づく遺産分割協議書の作成、各種名義変更に伴う書類作成などを支援できます。筆者の事務所でも、「まず何をすればよいか分からない」という段階からお話を伺い、必要な手続きを見渡したうえで支援範囲を決めています。
一方、税務申告は税理士、登記申請の代理は司法書士、争いのある相続の代理交渉や訴訟対応は弁護士の領域です。最初の相談先ですべてを抱え込むのではなく、必要に応じて適切な専門家へつなぐことが、結果として相続人の負担を減らします。
ワンポイントアドバイス
「弁護士に相談するほどのことなのか分からない」「税理士と司法書士のどちらへ先に行けばよいのか分からない」という段階でも構いません。筆者の事務所では、最初に事情を聞き、誰の専門領域なのかを見極めることが相続手続きの大切な一歩と考えアドバイスしています。
相続手続きの疑問を確認
最後に、相続手続きの相談でよく出る疑問を取り上げます。家族構成や財産内容によって結論が変わるものもあるため、個別事情がある場合は一般論だけで判断しないようにしてください。
相続手続きのよくある質問(FAQ)
Q1. 相続手続きは具体的に何から始めればよいですか?
A. まず死亡後の届出状況と遺言書の有無を確認し、その後に戸籍で相続人を確定しながら、預貯金・不動産・借金などを調べます。借金がある可能性を考え、3か月以内の相続放棄・限定承認の判断を先送りしないことが大切です。
Q2. 相続手続きを全部自分で行えますか?
A. 家族関係と財産が単純で争いがなく、必要書類を自分で集められるケースでは可能です。ただし、相続放棄、相続税、複雑な戸籍、不動産登記、相続人間の対立がある場合は、それぞれの専門家へ早めに相談するほうが安全です。
Q3. 遺産分割協議に期限はありますか?
A. 遺産分割協議そのものに、相続開始から何か月以内という一律の一般期限があるわけではありません。ただし、相続税申告は原則10か月以内、相続登記は原則3年以内など別の期限があるため、実際には早めに話し合いを進める必要があります。
Q4. 銀行口座が止まったら葬儀費用は出せませんか?
A. 口座が止まっていても、遺産分割前の預貯金払戻し制度を利用できる場合があります。また、金融機関ごとに必要書類や取扱いが異なります。急ぎで資金が必要な場合は、故人のカードを使って自己判断で引き出すのではなく、金融機関の相続窓口へ相談してください。
Q5. 相続手続きで行政書士には何を頼めますか?
A. 相続人調査のための戸籍収集、財産目録、相続関係を示す書類、相続人全員の合意に基づく遺産分割協議書の作成などを依頼できます。税務は税理士、登記申請の代理は司法書士、争いのある案件は弁護士の領域になるため、内容に応じた連携が必要です。
まとめ:相続手続きの流れ
相続で大切なのは、目の前の書類を片っ端から集めることではありません。まず遺言書を確認し、相続人と財産・負債を把握し、3か月の相続放棄、4か月の準確定申告、10か月の相続税、原則3年の相続登記を意識しながら順番を決めることです。
- 死亡後の届出と遺言書の確認を行う
- 戸籍で相続人を確定し、財産と負債を調べる
- 3か月以内の相続放棄・限定承認を検討する
- 遺産分割後に預貯金・証券・不動産の手続きを行う
- 準確定申告・相続税・相続登記の期限を守る
筆者が父の相続で感じたのは、「今何が起きていて、次に何をすればよいか」が分かるだけでも、不安はかなり違うということでした。相続手続きは自分で進められる部分もありますが、戸籍が複雑、借金が分からない、税金がかかりそう、不動産がある、家族間で意見が合わないといった事情があれば、早めに専門家の力を借りてください。
筆者が所長を務めるハト国際行政書士事務所では、相続の最初の段階で「何から始めればよいか分からない」という方からの相談にも対応しています。行政書士が対応できる戸籍収集や遺産分割協議書などの書類作成を支援し、税務や登記が必要な場合は税理士・司法書士など適切な専門家につなぎます。相続の入口で迷っている方は、まず現在の状況を確認するところから始めてみてください。
何からすべきか一緒に整理しましょう