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親族間で財産を引き継ぐ際、生前贈与と遺産相続のどっちが得なのかと悩む方は非常に多くいらっしゃいます。将来発生する税金の負担を少しでも軽くしたいと考えるのは当然のことですが、現金や不動産など移転する財産の種類によって、どちらの制度が適しているかは大きく異なります。
また、2024年の法改正によって生前贈与のデメリットや持ち戻しに関するルールが厳格化されたため、事前のシミュレーションなしに安易に生前贈与を進めると、思わぬ落とし穴にはまる危険性もあります。
この記事では、行政書士として相続の現場を経験してきた筆者が、読者の皆様の疑問や不安に寄り添い、状況に応じた資産承継の考え方を分かりやすく解説していきます。最後までお読みいただくことで、ご自身のケースにおいて最も納得のいく選択肢が見えてくるはずです。
- 本記事を読んでわかるポイント
- ・生前贈与と遺産相続の基本的な違いや税金制度の仕組み
・2024年の税制改正による持ち戻しルールの変更点と今後の対策
・現金や不動産といった財産ごとの移転コストや注意すべきリスク
・将来の相続トラブルを回避し円満に財産を引き継ぐための具体策
生前贈与と遺産相続はどっちが得か?税制の基本

ご自身の資産を次世代へ引き継ぐにあたり、まずは相続に関する日本の税制がどのような目的で作られているのか、そして生前贈与や遺産相続それぞれの制度に適用されるルールの大枠を把握することが非常に重要です。ここでは生前贈与と遺産相続における基本的な制度の違いや、基礎控除の仕組み、さらには近年の税制改正による影響について、具体的な要素を交えながら丁寧に解説していきます。
参考情報: 国税庁「相続時精算課税の選択」
生前贈与と遺産相続との違いとは?
個人の財産を次世代へ渡す方法として、生きている間に財産を譲る「生前贈与」と、亡くなった後に財産を引き継ぐ「遺産相続」とがあります。これらに関係する贈与税や相続税は、「富が一部の人に集中するのを防ぎ、世代間で再分配を促す」という同じ目的を持つ税制であり、切っても切り離せない表裏一体の関係にあります。
一般的には、生前に無制限に財産を移して相続税の税負担から逃れることを防ぐため、贈与税のほうが相続税よりも厳しい税率(累進課税)に設定されています。それにもかかわらず、多くの方が生前贈与を検討するのは、時間を味方につけて非課税枠を毎年コツコツと利用できるメリットがあるためです。また、将来的に価値が上がりそうな財産(株式や一部の不動産など)を、現在の低い評価額の段階で次世代へ移せるという点も生前贈与の大きな強みとなります。
基礎控除と税金面から見る有利な選択肢
生前贈与と遺産相続との損得を判断する際の最初の分岐点は、ご自身のケースにおいて「そもそも将来の相続税が課税されるのかどうか」という点です。日本の相続税には、誰もが利用できる大きな非課税の枠である「基礎控除」が設けられています。この基礎控除の額は「3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)」という計算式で定められています。例えば、法定相続人が配偶者と子2人である場合、法定相続人が3人であるから、相続時の基礎控除額は、「3,000万円 +(600万円 × 3人)」で4,800万円となります。
もし保有している総資産の見込み額が、この基礎控除額を下回るのであれば、あえて生前に手間やコストをかけて生前贈与を行う経済的なメリットはほとんどありません。総資産が基礎控除額以下の場合は、手元にしっかりと財産を残したまま将来の相続に委ねる方が「得」だと言えます。
一方で、総資産が基礎控除額を大きく超えており、将来的に多額の相続税がかかることが予想されるご家庭にとっては、生前贈与を活用して計画的に財産を減らしていくことが、一族全体での税金負担を軽くする有効な手段となります。なお、適用される税率は状況により異なりますので、最終的な確認と判断には専門家との相談をおすすめします。
2024年改正が与えた影響と今後の対策
生前贈与を活用した対策は長らく定番とされてきましたが、2024年(令和6年)1月1日に施行された税制改正により、大きなルールの変更(パラダイムシフト)が起こりました。これにより、従来の生前贈与のやり方を見直す必要に迫られています。
特に注目すべきは、「相続時精算課税制度」の抜本的な拡充です。「相続時精算課税制度」とは、60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与において、累計2,500万円まで無税で生前贈与できる制度です(ただし、相続時には生前贈与した財産が加算される)。
相続時精算課税制度は、これまで少額の贈与であっても毎年申告が必要で使い勝手が悪いと敬遠されがちだったのですが、新たに「年間110万円の基礎控除枠」が設けられ、この範囲内は申告不要となり使い勝手がよくなりました。さらに、この新しい基礎控除の枠内(年間110万円)で贈与した分については、将来の相続財産に持ち戻される(加算される)こともなくなりました。早い段階で次世代へ確実に財産を移転させたい方にとって、非常に強力な選択肢へと生まれ変わったのです。
生前贈与のデメリットと持ち戻しルールの罠
もちろん、生前贈与にはデメリットや注意すべき罠も存在します。2024年の改正で納税者に最も大きな影響を与えたのが、暦年贈与(毎年110万円の非課税枠を使った贈与)における「持ち戻し期間の延長」です。「持ち戻し期間(生前贈与加算)」とは、亡くなった人から相続開始前(主に2024年1月1日以降は7年以内)に受けた生前贈与を相続財産に加算し、相続税を計算する期間のことです。
持ち戻し期間が設定されている理由は、亡くなる直前の駆け込み的な贈与による税逃れを防ぐためのものです。2024年の改正により、この持ち戻し期間、すなわち相続発生前に行われた贈与を相続財産に足し戻す「生前贈与加算」の対象期間が、従来の「死亡前3年間」から、段階的に「死亡前7年間」へと延長されました。
これにより、ご自身の体調に不安を感じてから慌てて生前贈与(暦年贈与)を始めても、その大半が相続税の対象に引き戻されてしまうリスクが高まりました。法改正の影響を最小限に抑えるためには、健康で若いうちから、10年、20年という長期的な視野で計画的に資産移転を進める(ライフタイムベースの対策)ことが今後の大前提となります。
財産別で生前贈与と遺産相続のどっちが得か解説

税金の基本ルールを把握した後は、実際に移す「財産の種類」に焦点を当てて考えてみましょう。現金なのか、不動産なのか、はたまた有価証券なのかによって、かかる費用や使える特例が根底から変わってきます。それぞれの財産ごとの特徴と、最適な承継方法について解説します。
現金の移転に関する注意点と名義預金リスク
日常的に最も手軽に行えるのが暦年贈与を利用した現金での生前贈与ですが、実は税務調査において最もトラブルになりやすい、いわば「落とし穴」の多い財産でもあります。その最大の要因が「名義預金」とみなされるリスクです。
名義預金とは、銀行口座の名義は子供や孫であっても、実際にお金を入金した人や通帳・印鑑を管理しているのが親(祖父母)であると判断される口座のことです。税務署に名義預金と認定されると、その銀行口座への入金という形で行った過去の贈与は無効となり、全額が亡くなった方の相続財産として課税されてしまいます。
名義預金を防ぐための対策
このような名義預金とみなされることへの対策として、お金を移動させる度に、しっかりと「贈与契約書」を作成して双方の署名捺印を残すことが重要です。また、通帳やキャッシュカードは、贈与を受けた本人(子供や孫)が管理し、その本人が自由に使える状態にしておく必要があります。
不動産移転における流通税と特例の喪失
不動産の移転においては、現金とは比較にならないほど複雑なコストがかかるため、一般的に居住用不動産(自宅など)については「遺産相続のほうが圧倒的に得」になるケースが多いです。
大きな理由の一つが、不動産の名義変更に伴う流通税(登録免許税や不動産取得税など)の差です。以下、遺産相続と生前贈与における不動産移転時の流通税の差を表にしました。
| 流通税の種類 | 遺産相続の場合 | 生前贈与の場合 |
|---|---|---|
| 登録免許税 | 固定資産税評価額の0.4% | 固定資産税評価額の2.0% |
| 不動産取得税 | 非課税(かからない) | 固定資産税評価額の3%など(本則課税) |
さらに決定的なデメリットとして、生前に自宅を贈与してしまうと、相続時に土地の評価額を最大80%減額できる強力な節税ツールである「小規模宅地等の特例」が使えなくなってしまうという点が挙げられます。
ただし、移転対象が自宅ではなく、毎月の家賃収入を生み出す「収益アパート」などの場合は、早期に生前贈与することで、その後の家賃収入を次世代へ移し、親の財産が膨れ上がるのを防ぐ効果があるため、遺産相続よりも生前贈与が有利になることもあります。なお、状況によっては、将来的に不動産を売却・処分する際の取得価額の調べ方についても事前に把握しておくと安心です。
複雑な手続きに関する注意点と負担の比較
移転したい財産が上場株式や投資信託といった有価証券の場合、生前贈与でも不動産のような高額な流通税がかからず、将来発生する「配当金」の受け取り権利も早期に次世代へ渡せるというメリットがあります。また、株価が下がっている時期を狙って贈与をすれば、その後の値上がり益は非課税で次世代のものとなります。
一方で、オーナー経営者が保有する非上場企業(自社株)の場合は、より慎重な対応が求められます。会社の利益が蓄積されて株価が跳ね上がっていることが多く、そのままでは事業を引き継ぐ後継者に莫大な税負担がのしかかります。このような場合は、一般的な贈与とは異なり、有限会社の株式相続における基本的な調整手法や「事業承継税制」などの特例活用を念頭に置いた、専門的な手続きが必要不可欠です。
遺留分トラブルを回避する生命保険の活用法
税金の損得ばかりに気を取られ、家族の感情面を軽視してしまうと、残された親族間で骨肉の争い、いわゆる「争族(そうぞく)」に発展してしまう恐れがあります。例えば、特定の子どもにだけ多額の生前贈与を行っていた場合など、他の相続人から最低限の取り分である「遺留分(いりゅうぶん)」を請求され紛争となるリスクがあるからです。
このトラブルを未然に防ぐ実務的な解決策として、よく活用されるのが「生命保険」です。生命保険の死亡保険金は、原則として受取人固有の財産とみなされるため、遺産分割の対象外となり、遺留分の計算基礎からも外すことができます。
例えば、特定の子どもに事業や不動産を譲る代わりに、他の子どもへは保険金という「確実に受け取れる現金」を用意しておくことで、公平性を保ちつつ円滑な財産の承継が可能になります。また、生命保険には「500万円 × 法定相続人の数」という非課税枠があるため、相続税対策としても非常に有効です。
総合的なシミュレーションで最適解を探る
財産を次世代に承継するにおいては、目の前の「一次相続(例:父親が亡くなり、母親と子どもが相続する)」だけで判断するのは危険です。配偶者の税額軽減特例を使って一次相続の税金をゼロに抑えたとしても、将来確実に訪れる「二次相続(母親が亡くなり、子どもたちだけで相続する)」の際に、合算された多額の財産に対して跳ね上がった税率が適用され、子どもたちに壊滅的な税負担を強いるケースが後を絶ちません。
このようなリスクを避けるためには、一次相続・二次相続を一体として捉えた中長期的なハイブリッド戦略が鍵となります。手元に残して遺産相続で移転すべき財産(不動産など)と、早めに生前贈与すべき財産(収益物件や金融資産など)を適切に組み合わせる「ハイブリッド戦略」を構築することが、一族全体の負担を減らす最適解となります。
まとめ:生前贈与と遺産相続はどっちが得?状況別の最適解を解説
ここまで様々な角度から解説してきましたが、「結局のところ、生前贈与と遺産相続はどっちが得なのか?」という問いに対しては、「万人共通の単一の正解はない」というのが答えになります。総資産の規模、財産の種類(現金か不動産か)、家族構成、さらには「いつまでに財産を譲りたいか」という時間軸によって、正解は百人百様だからです。
2024年の税制改正によって、死期が近づいてからの生前贈与による駆け込み対策は実質的に封じられました。今後は残された「時間の長さ」を最大の武器として活用していくことが何よりも重要です。
なお、本記事でご紹介した税率や基礎控除などの数値データ、各種制度の要件はあくまで一般的な目安です。税制は複雑であり、法改正も頻繁に行われます。そのため、実行に移される前には正確な情報を国税庁の公式サイトなどでご確認いただき、ご自身の状況に合わせた最終的な判断は、税理士など信頼できる専門家にご相談されることを強くおすすめいたします。適切な専門家のサポートを得ながら、世代を超えた円満な資産防衛を目指してください。
次のアクションへのヒント
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