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相続手続きにおける遺産分割協議書の書き方や、銀行や「ゆうちょ」などから故人名義の預貯金を引き出すためには遺産分割協議書に何を記載すればよいのかについて不安を感じていませんか?
相続が発生すると故人名義の銀行口座は凍結されるので、残された家族が当面の生活費を支出するためには、故人名義の預貯金を引出すための必要書類の収集、それに伴う相続人全員の同意形成などが必要となり、精神的にも実務的にも大きな負担がかかります。特に、遺産分割協議書の内容に不備があると、預貯金の払戻しができず、葬儀費用や当面の生活費の支払いに支障が出ることも珍しくありません。
筆者は行政書士の業務として相続相談を受けていますが、実務の現場では「とりあえず自分で書いた遺産分割協議書」が原因で預貯金引出しの手続きが止まってしまうケースを何度も見てきました。本記事では、遺産分割協議書の書き方と預貯金引出し(預貯金相続)の実務について、必要書類、具体的な記載方法、ひな形の使い方、実印や金融機関対応まで、初めて相続に直面した方でも全体像を理解できるよう、体系的かつ実務目線で解説します。
- 本記事を読んで理解できるポイント
- ・預貯金引出し(預貯金相続)で遺産分割協議書が必要な理由を理解できる
・金融機関で通用する遺産分割協議書の書き方が分かる
・預貯金引出しに必要な書類と実務の流れを把握できる
・相続トラブルを防ぐための注意点を学べる
遺産分割協議書の書き方と預貯金引出しの基本

この章では、相続の場面における故人名義の預貯金引出し(預貯金相続)と、預貯金などの相続ではなぜ遺産分割協議書が重要になるのか、法律と実務の両面から基本的な考え方を整理します。
預貯金相続に必要な遺産分割協議書とは
遺産分割協議書とは、相続人全員が参加して遺産の分け方を話し合い、その合意内容を文書として残したものです。相続が開始すると、被相続人(故人)名義の預貯金口座は原則として凍結され、残された家族といえども自由に引出すことができなくなります。この凍結解除や引出し・払戻しの際に、金融機関が最も重視する書類の一つが遺産分割協議書です。
預貯金について誰に相続させるかを指定した遺言書が存在しない場合、法律上は法定相続人に対して法定相続分どおりに相続することになりますが、実務では「生活費として配偶者がまとめて預貯金を管理する」「葬儀費用を一人が立て替える」など、法定相続分どおりでは不都合が生じる場面が多々あります。その調整を可能にするのが遺産分割協議(法定相続人らによる協議)であり、その結果を書面化したものが遺産分割協議書です。
重要: 預貯金相続では、誰がどの口座を、いくら取得するのかを具体的に記載することが極めて重要です。
なお、預貯金の引出し・払戻しに関する実務的な取扱いについては、金融庁が公表している金融機関向けの指針等に基づいて運用されています。最終的な運用は各金融機関で異なるため、必ず個別確認が必要です。
預貯金引出しで求められる必要書類
故人名義の預貯金を引出す際に求められる書類は、金融機関によって多少の違いはあるものの、概ね共通しています。代表的なものとして、遺産分割協議書、被相続人(故人)の出生から死亡までの戸籍謄本一式、相続人全員の戸籍謄本・印鑑登録証明書、本人確認書類などが挙げられます。
ここで注意すべきなのは、必要書類の「種類と数」が揃っているだけでなく、書類の「整合性」がとれていることが重要です。例えば、戸籍謄本一式から「法定相続人はAさんとBさん」だと確認できるが、遺産分割協議書では「預貯金をAさんとCさんとで分ける」と書いてある場合、戸籍謄本の内容と遺産分割協議書の内容に整合性がとれていないため、銀行は預貯金の引出し・払戻しの手続きができません。遺産分割協議書は戸籍上の相続関係と整合性を保つように作成する必要があります。
注意: 金融機関は法的リスクを極端に嫌います。少しでも疑義がある書類は受理されないと考えておきましょう。
また、金融機関によっては独自の払戻請求書や相続届の提出を求められることもあります。これらは窓口で初めて渡されることも多いため、来店前に電話等で確認しておくと無駄足を防げます。
遺産分割協議書の記載項目とひな形
遺産分割協議書には、法律で定められた厳密な様式は存在しません。しかし、実務上は「誰についての相続か」「誰が相続人か」「どの遺産を誰が取得するのか」が第三者にも一読して分かる内容であることが強く求められます。以下、預貯金引出しに使用する遺産分割協議書に最低限記載すべき基本項目と、預貯金引出しに役立つ遺産分割協議書ひな形について説明します。
最低限記載すべき基本項目
預貯金引出しに使用する遺産分割協議書には最低限記載すべき基本項目として以下の4項目があります。
- 被相続人の氏名、生年月日、死亡日
- 被相続人の本籍地および最終住所地
- 相続人全員の氏名と続柄
- 預貯金の具体的な内容(金融機関名、支店名、口座番号)
特に預貯金については、「○○銀行の預金一切」といった抽象的な表現ではなく、口座単位で特定することが重要です。これにより、金融機関側の確認作業が大幅に簡略化され、払戻しがスムーズになります。
遺産分割協議書ひな形
以下に示す「預貯金引出しに使用する遺産分割協議書ひな形」は、自分で遺産分割協議書を作成する際の見本として利用できます。この遺産分割協議書ひな形を参考にすることで、被相続人名義の預貯金引出しに必要な遺産分割協議書の項目を漏れなく記載でき、法律上有効な遺産分割協議書を作成することに役立ちます。(ひな形にある赤字はコメントです)
遺産分割協議書
被相続人 田中太郎(昭和〇〇年〇月〇日生まれ)
死亡日 令和〇〇年〇月〇日
本籍地 東京都板橋区〇〇町〇丁目〇番〇号
最終の住所地 東京都板橋区〇〇町〇丁目〇番〇号
被相続人田中太郎の遺産相続につき、被相続人の妻田中花子、被相続人の長男田中一郎、被相続人の長女田中春子の相続人全員が遺産分割協議を行い、次のとおりに遺産分割の協議が成立した。
1.田中花子は次の遺産を取得する。
預貯金:〇〇銀行〇〇支店 普通預金
口座番号123456
*妻の田中花子が単独で預貯金の引出しを行えるようになります。
2.本遺産分割協議書に記載なき資産および後日判明した遺産については、田中花子がすべてこれを取得する。
*預貯金以外の遺産すべて(負債も含む)を妻の田中花子が相続します。
以上とおり、相続人全員による遺産分割協議が成立したので、これを証明するため、本遺産分割協議書を作成し、相続人全員が署名捺印のうえ1通ずつ所持する。
令和〇〇年〇月〇日
住所 東京都板橋区〇〇町〇丁目〇番〇号
相続人 田中花子 (印)
*署名はボールペン等による手書きが望ましい。押印は実印。
住所 東京都板橋区〇〇町〇丁目〇番〇号
相続人 田中一郎 (印)
*署名はボールペン等による手書きが望ましい。押印は実印。
住所 東京都板橋区〇〇町〇丁目〇番〇号
相続人 田中春子 (印)
*署名はボールペン等による手書きが望ましい。押印は実印。
以上は、法定相続人が妻と二人の子であるケースで、妻が単独で預貯金引出しをする場合の遺産分割協議書ひな形となります。不動産などその他の遺産がある場合や、妻と子で預貯金を分けるような場合にはアレンジが必要です。
預貯金対応の遺産分割協議書ひな形を使用する際の注意点
上に示した遺産分割協議書ひな形の他にも、インターネット上には多くの遺産分割協議書ひな形が公開されています。これらを活用することで、初めての方でも一定水準の遺産分割協議書を自分で作成することは可能です。ただし、ひな形はあくまで一般的かつ特定のケースを想定したものに過ぎません。
例えば、被相続人の遺産として預貯金の他、不動産や株式、負債なども存在する場合に、預貯金引出し専用のひな形を流用すると、金融機関での預貯金引出しは問題ないとしても、その他の遺産の分配において、後日の紛争リスクが高まります。実際に相続手続きにおけるトラブル相談の現場でも、「ひな形どおりに作ったが、他の遺産が抜けていた」という理由で再協議となるケースは少なくありません。
遺産分割協議書ひな形は、あくまで参考資料と割り切り、必ずご自身の相続内容に合わせて確認し、必要に応じて調整してください。少しでも不安がある場合には、行政書士などの専門家に相談することをおすすめします。
実印押印と印鑑登録証明書の注意
遺産分割協議書は、相続人全員が内容を承認したことを示す重要書類です。そのため、金融機関の多くは、相続人全員の実印による押印と、印鑑登録証明書の提出を求めます。
そのため、遺産分割協議書への押印は、認印やシャチハタなど実印以外のものでは受理されないのが原則であり、署名についても自署が求められます。高齢の相続人がいる場合など、代筆したくなる場面もありますが、後日の無効主張を防ぐためにも避けるべきです。
遺産分割協議書の書き方と預貯金を引出す実務

ここからは、実際に被相続人(故人)名義の預貯金を引出す場面を想定し、実務上つまずきやすいポイントを中心に解説します。遺産分割協議書は「作成すれば終わり」ではなく、金融機関の実務に耐えうる内容でなければ、預貯金の払戻しという本来の目的を達成できません。特に、金融機関ごとの対応差、単独引出しの可否、協議書の有効性を左右する注意点を正しく理解することが、相続手続きを円滑に進めるための鍵となります。
金融機関別の預貯金引出し手続きの違い
都市銀行、地方銀行、信用金庫、信用組合、ゆうちょ銀行では、相続手続きの進め方や求められる書類の厳格さに明確な違いがあります。これは、各金融機関が内部規程やリスク管理基準を独自に定めているためであり、「どこでも同じ対応をしてもらえる」と考えるのは非常に危険です。
例えば都市銀行では、遺産分割協議書の文言チェックが厳格で、口座番号や支店名の記載漏れがあるだけで再提出を求められるケースが少なくありません。一方、地方銀行や信用金庫では比較的柔軟な対応をしてもらえる場合もありますが、それでも相続人全員の実印押印や印鑑登録証明書の提出は原則必須です。
特に注意が必要なのが、ゆうちょ銀行です。ゆうちょ銀行は独自の相続手続きフローと専用書式を採用しており、一般的な遺産分割協議書だけでは手続きが完結しないことがあります。相続確認表や相続関係届出書など、ゆうちょ独自の書類提出が求められるため、初めて相続手続きを行う方が戸惑いやすい傾向があります。
金融機関ごとの違いを理解せずに協議書を作成すると、書類の作り直しが発生し、預貯金引出しまでに数週間から数か月の遅れが生じることがあります。
共通して言える最重要ポイントは、事前確認がすべてを左右するという点です。来店予約制を導入している金融機関も増えており、予約なしでは受付自体を断られるケースもあります。必ず事前に電話や公式サイトで、必要書類、予約の要否、受付窓口を確認してください。
なお、金融機関における相続預貯金の払戻し実務は、金融庁が示す利用者保護や事務リスク管理の考え方を踏まえて運用されています。これは、相続人間の紛争に金融機関が巻き込まれることを防ぐ目的もあります(出典:金融庁 公式サイト)。
預貯金を単独引出しする場合の記載
被相続人の配偶者や同居していた子など、特定の相続人が預貯金を単独で引出すケースは、実務上非常に多く見られます。葬儀費用や当面の生活費の支払いに充てる必要がある場合、単独引出しができるかどうかは極めて重要なポイントです。
この場合、遺産分割協議書には「誰が」「どの預貯金を」「どのような権限で取得するのか」を、第三者が読んでも一義的に理解できるレベルまで明確に記載する必要があります。具体的には、「○○銀行○○支店 普通預金 口座番号○○については、相続人Aが単独で取得する」といった表現が基本となります。
「相続人Aが管理する」「代表して手続きする」といった曖昧な表現では、単独取得と認められない可能性があるので、注意が必要です。
このような単独取得が明記されていない遺産分割協議書の場合、金融機関は「法定相続人全員の共同取得」と解釈します。その結果、全員の同席や委任状提出を求められ、手続きが事実上進まなくなることも珍しくありません。
また、単独取得者が他の相続人に対して代償金を支払う場合には、その金額や支払期限、支払方法を協議書内に記載しておくことが望ましいです。これにより、「預貯金を独り占めされた」といった誤解や感情的対立を未然に防ぐことができます。
遺産分割協議書作成時のその他の注意点
遺産分割協議書は、相続人全員の合意があって初めて有効になります。一人でも署名押印が欠けている場合、その協議書は原則として無効であり、金融機関は預貯金の引出し・払戻しに応じません。この点は、実務上最も多い失敗例の一つです。
特に問題となりやすいのが、連絡が取れない相続人がいる場合や、高齢や認知症などで判断能力に不安がある相続人がいるケースです。このような状況で無理に遺産分割協議を進めると、後日協議無効を主張されるリスクが高まります。
重要: 相続人の判断能力に疑義がある場合は、成年後見制度の利用を含め、早期に専門家へ相談する必要があります。
また、協議時点では把握できなかった預貯金が後日見つかることも少なくありません。ネット銀行や休眠口座が典型例です。このような場合に備え、「後日発見された預貯金については、同一割合で分割する」などの条文を入れておくことで、再協議の手間とトラブルを大幅に減らすことができます。
預貯金相続で多いトラブル事例
預貯金相続(預貯金の引出し・払戻し)で特に多いトラブルは、「説明不足による不信感」と「遺産調査漏れ」です。例えば、単独引出しを行った相続人が、他の相続人に十分な説明をしないまま手続きを進めた結果、「勝手に使われた」という不満が生じるケースがあります。
また、被相続人が保有していた金融機関口座の調査が不十分なまま協議を終えてしまい、後日まとまった預貯金が違う口座から見つかることで、「なぜ最初に調べなかったのか」という責任追及に発展することもあります。相続人間で一度感情的な対立が生じると、話し合いによる解決は一気に難しくなります。
ポイント: 相続トラブルの多くは、初動対応と情報共有を徹底することで予防可能です。
相続トラブルにより、最終的に家庭裁判所での調停や審判に発展した場合、解決までに半年から数年を要することもあり、その間は預貯金を自由に使えない状態が続きます。時間的・精神的・金銭的な負担を避けるためにも、遺産分割協議書の段階で実務を強く意識した対応が不可欠です。
まとめ:遺産分割協議書の書き方と預貯金引出しのためのガイド
遺産分割協議書の書き方と預貯金相続の実務を正しく理解することが、円滑な相続手続きへの近道です。本記事で紹介した遺産分割協議書ひな形や解説した内容は、あくまで一般的かつ特定のケースでの例と目安に基づくものです。金融機関の運用や個別事情によって取扱いが異なる場合もありますので、正確な情報は各金融機関の公式案内をご確認ください。
また、相続手続きには相続関連の法令に基づいた知識と判断が必要です。ひな形や解説とは異なるケースにおいては、安易な判断は避け、少しでも不安がある場合は、行政書士など相続実務に精通した専門家へ相談することを強くおすすめします。